バリスティック ヒラ 11MH TZ/NANO ファーストインプレッション
このロッドの話をする前に、九州の酒・・・酒蔵の話をしたいと思います。
まず自分は日本酒は好き・・・それも「かなり好き」な部類に入ると思うけれども、ハッキリいって九州の酒蔵の酒は嫌いです。
そりゃあ、地産地消というアイディアは好きだし、地元の物を愛したいという気持ちはあるけれど・・・
そもそも九州という焼酎王国の地の日本酒はいかがなものかという話?
九州という暖かい南国(暖かいと原料の米に味を引き締める酸味が欠けがちになり、しかも発酵段階で雑味の元となる「余計な菌」の繁殖とリンクする・・・とにかく暖かいと醸造酒にはハンデとなるのだ)の酒は嫌だから?
いや、彼らの酒造りは節操がないから、です。
暖かい地域の清酒=メリハリのない酒
という一般論は努力によって覆せる・・・それは高知の酔鯨酒造の酒を飲めばわかります。
とにかく、九州の酒蔵は節操がない。
「芳醇甘口」のテイストが日本酒コンクールでの入賞・受賞の方程式だと芳醇甘口を造り、獺祭のような極端な「吟醸香」が高級酒の流行りとなると下品な吟醸香を放つ獺祭モドキを造ろうとする。
九州は大酒飲みが多いので、九州の地酒は(特に毎日飲むような酒は)ずっと飲み続けることが出来る辛口の味付けが演出しやすいアル添の非純米酒が主流であったのに、どうやら純米酒が主流となりつつあるんじゃないかと空気を読むと柄にも無く純米酒を造ろうとする・・・・
そして肝心なことに、大抵の「ブームに便乗・なんちゃって」の方向性で造られた九州の酒は旨くもなんともない。
飲めるのはほんの僅か。
福岡・佐賀の酒は山口に劣り、広島に劣り、高知に劣る。
節操がない、哲学がない、heritageがない・・・「急ごしらえ」のブツはスペックシートの上ではなかなか見栄えがするけれども、そのボロは隠しきれるものではなくすぐに本性が出るという話です。
うわあ・・・何かとっても怪しい雰囲気・・・・超辛口インプレの開始を予感させる序文になりましたが、予め断っておきます。
このロッド・・・バリヒラ11MHTZNANOにはかなり高い評価をしようと思います。
この日本酒の話は何の話かというと、「バリヒラは節操がないロッドである」といいたいのではなく、「バリヒラは九州の酒蔵のように節操のないロッドではないかと疑ったが、実は違った・・・節操を堅く保っていたロッドであった」という話なのです。
ヤマガのロッドは「よく曲がる」という定評があります。
バリヒラTZNANOの前モデル・・・ノーマルバリスティックヒラもその定評に違わぬテイストであったそうです。
そしてこの2015年末にリリースされたトルザイトリングとナノブランクを使用した現行モデル。
触ればわかりますが・・・硬い。
11Hは当然のこと、11MHですら中々の硬さ。
このバリヒラを触った人の第一印象は「このロッドは硬いな!」というものになるはずです。
ヤマガといえば、「九州系のカチカチヒラロッド」の製造元である・・・との噂が絶えませんが、とうとう彼らの影響を受けてヤマガ自身も“九州系”を作りはじめたのか・・・と、触った誰しもが想像したことでしょう。
自分も店頭でそう思いました。
いや、バリヒラ11MHを購入し、実釣でキャストした際もそう思ってました。
が、違います。
前モデルの所有者は「TZNANOになってから硬くなった・別物になった」と思われるでしょう。
店頭で触っただけの人も「このロッドは硬めだな」と思うでしょう。
実釣で少し振っただけの人も同じことを思うでしょう。
が、違います。
バリヒラ11MHTZNANOには高弾性カーボンもそれなりに使われていると思いますし、おそらくは高弾性ロッドというべきなんでしょうが、ロッドの性格はどちらかと言うと中弾性よりのテイストです。
いや、配合されたナノカーボンがそう思わせているのかもしれません。
バリヒラTZNANOは、いや、11MHは・・・・“九州系”の定義が「パキパキ高弾性の強ロッド」あるとすると、間違いなく“九州系”ではありません。
ただし、11Hは11MHに比べてパワー増加分に対する重量増加が控えめ(11MHの228gに対して11Hは241g・・・僅か13gの増加)なので、もしかしたら11MHより高弾性カーボンの配合具合が多く・・・つまり、「九州系」の定義に入るロッドなのかもしれません。
ヤマガブランクス バリスティック・ヒラ TZ/NANO
自分が思うに、11MHはナノブランクの特性を最大限引き出すことに成功しているロッドだと思います。
いや、11MHくらいナノブランクを体感できるロッドはそうあるものではないですね。
振るだけだと硬く感じますが、実際に魚を掛けると想像以上に曲がり、粘り、さらに隠れたパワーが出現します。
オイ、オマエのそのパワーどこに隠れてたんだよ・・・って(笑)
残念ながら前モデルを知らないので比較が出来ないのですが、これは「志向の断絶」・・・すなわち、節操の無さではなく、余計なものを捨て去って必要なものを残した・・・連続性を感じさせる「進化」であるといえるでしょう。
キャスト時には(ある程度)シャープで硬く、でも、魚を掛けたら柔らかくタフに粘る。
よく考えると、逆風吹き荒れる磯の上、ロッドはキャスト時に柔らかくある必要はありませんよね。
というわけで、このロッドの真価は魚を掛けてから、それも難しい状況で掛けてから、初めてわかるものだと思います。
悪いお知らせがあります。
このロッドは確かに「キャスト時の硬さ」がある程度備わっているのですが、純粋な“九州系”ではないがために、タフコン下での使用には限界があります。
いや、キャスタビリティーは高いです。
ここで言っているのは、UC11 2Sのような正真正銘の九州系・超エクストリームコンディションで期待されるような能力は11MHには備わっていない、ということです。
(後述しますが、これにはブランクの構造上の理由があると思われます)
また、11MHは毎回毎回100%の力で振り抜くと結構疲れるロッドです。
ただし、80%程度の力で流しながら使い続けると10時間+の釣行と10km+の磯歩きに耐えるものになりますので、肩の力を抜いて使いましょう。
バリヒラの価値を下げている要素がいくつかあります。
まず、合わせるリールについてですが・・・ダイワ3500/4000・シマノ5000/6000が正解です。
ダイワ3000・シマノ4000ではありません。
300g程度のリールだとちょっと不釣り合いです。
(NEWツインパXD5000の自重300gなんかは罠・・・)
自分の場合
○ 15ソルティガ4000H (450g)
△ 11ツインパ4000XD (315g)
△ 13セルテ3012H (275g)
おそらく理想的なバランスはリールの選択では得られるものではなく、グリップエンド最後部へのバランサー的な何かの取り付けによってのみ、解決するのではなかろうか・・・?
で、このリールシート
一言でいうとfucking cheapです。
very poorです。
これ、6万のロッドのパーツですか?
Gクラフトのようなカーボン削りだしシートにしろとはいいませんが、これはあんまりでしょう。
このリール締め具、アーリープラスのと共通じゃないですかね?
ホラ、その、レクサスLS600にカローラの内装・・・コンソールパネルとかが装着されていたら困惑しますよね・・・
いや、フィーリングの問題だけじゃないんです。
これ、殆ど役に立たないじゃないですか。
意味あるんですか、これって?
誰か一人、テスターなりヤマガ社員なり、誰でもよかったので一言・・・「これって安いっぽいし役にたたないッスよね」って口に出さなかったんですかね・・・
グリップエンド長は短すぎず長すぎず、自分にはジャストフィットです。
いや、このブランクにはこれくらいの長さで十分でしょう。
↓バリヒラ11MH
UC11 2Sに比べたら随分短いです。
↓UC11
まぁ、UC11は超パキパキでかつ「極限状態での使用」を考えられているので、これくらいのサポートがキャスティングに必要なんですね。
11MHは長さはいいのですが、前述の通り400g前後のリールを装着しても前後の重心バランスが決まりません。
先重りを感じる・・・というヤツです。
自作バランサーの導入を研究中。
ちなみに「継」は印籠継でワックスなしでも緩みは殆ど発生せず
なかなかの高品質です。
ぶっちゃけいいますが、トルザイトリングを使用している意味をあまり感じません。
もしかするとただのSiCチタンKにして、その分、価格をお求めやすいように設定したほうがメーカーにとってもユーザーにとっても良かったのではないでしょうか・・・?
何故トルザイトの恩恵を感じないかというと・・・
トルザイトかSICかというリング素材の問題、ガイド重量が軽いか重いか以前の問題で、ガイド径がロッドパワー不相応に小さいからです。
バリヒラ11MHTZNANOのガイドセッティングは
7-7-7-7-8-10-12-20-30
バットガイドの25だけがダブルフットであとは全てシングル
ぶっちゃけ、ブランクの持つパワー、それに合わせるべく設定したラインシステムには小さすぎるんです。
(もしガイドを破損させてしまったとしたら・・・個人的には元のガイドセッティングに戻そうと思わないですね・・・いや、破損させてしまわなくとも改造を考えたくなるレベルです)
このチグハグ感・・・う~ん・・・
だって、ダイワ3500/4000番のリールを使わさせるということはPE2号を使わさせるということで、PE2号を使わさせるということは大抵の場合、リーダーは35lbか40lbになりますよ。10号か12号。
でも11MHのガイド径だと12号はNG。
10号は条件付き。
トラブルレスが欲しければ8号30lb
要するに、このロッドは:
パワー:PE2号(正確な表現としては“1.75号”くらい)とリーダー35lb
ガイド:PE1.5号とリーダー30lb
リール:PE2号(ダイワ3500/4000かシマノ5000/6000)
こういうおかしな事になっているわけです。
もし11MHがPE1.5号の使用を標準として考えられているならば、リールはダイワ3000シマノ4000を前提にしてロッドの重量バランスを設計するべきだし、ロッドの自重ももっと軽くするべき。
もし11MHがPE2号の使用を標準として考えられているならば、リールはダイワ3500シマノ5000を前提にして、ガイド口径もそれなりに大きくするべきだし、自重が増えてもいいのでグリップエンドにもうすこし重量を乗せてバランスをとったほうがいい。
ブランクは、良い・・・極上だと思います。
ただ、細部・・・仕上げの設定がこれでもかというくらいにスポイルされて、残念。
ヤマガには「天皇」みたいなアンタッチャブルな人がいて、一般社員やテスターは「こりゃあイイッス!最高ッス!!」みたいなヨイショ係になっているんじゃなかろうかと疑ってしまいますよね。
外からの注文・・・つまり社外からの細部に渡る要望は「うるさいんじゃ!オレがこれで良いと言っとんのじゃ!」なんて斬って捨てることは出来ないのでヤマガをOEM先としているメーカーのブツはキッチリ仕上り、ヤマガ自身のブツは誰も何も言わないので残念なことになる、と。
もしそうだとしたら本当に皮肉・・・
ラインシステムには随分苦労しましたが、結局↑で安定しました。
リーダーをガイドに入れて継の部分でスペーサーとの結束部分が来る感じで外に出てるリーダーも同じくらいの長さ。
つまり、リーダー30lbを3.5mほどにスペーサーPE4~6号を3mほど。
これで今のところ抜け具合は完璧です。
ただし、30lbだと不安な場所には・・・
11MHの最大の美徳はその魚を掛けたあとの操作性にあると思います。
魚を掛けたら、思いっきりヤッていいです。
何のこっちゃと思われるかもしれませんが、自分が所有するロッドでバリヒラ11MHより強いロッドが2本・・・UC11 2SとSHORE11・・・ありますが、強いロッドで「思いっきりヤル」のは、実は躊躇いが出るんですよね。
バラしてしまうんじゃなかろうとかという躊躇い。
身切れさせてしまうんじゃなかろうかという躊躇い。
フックが伸びてしまうんじゃなかろうとかという躊躇い。
強ロッドで「思いっきりヤル」のは実は難しいんです。
魚のサイズがロッドのパワーにマッチしていなければ、その過剰なパワーがどういう結果をもたらすことになるか余計な想像をして萎縮してしまうわけです。
車で例えるなら・・・持て余すくらいのパワーとトルクがあって迂闊に踏めない車より、常にレッドゾーンまで回せる車のほうがいい場合がある・・・ということです。
そこのところ、バリヒラ11MHは気兼ねなく思いっきりシていいうえに、魚を掛ける以前には想像し得ないレベルで曲がって粘るんですね。
このロッドは世間の流行にあわせて「九州系」に突如変質したわけではなく、そのいなし、その曲がりにおいてはクラシックなヤマガのままです。
走られて潜られても、どこかしら、バットから滲み出てくるような「余力」を感じるので、焦らずに魚を支配するための行動を取ることが可能となります。
ドラグはやや強めに設定して、ブランクの曲がりを優先させましょう。
あとはブランクが教えてくれる「この魚を獲るためにやるべきこと」に従って動けばいいだけ。
素人を玄人にしてくれるロッド。
下手を上手にしてくれるロッド。
焦らなくていいロッド。
パワー的にはアベレージが60~70の地域にピッタリでしょう。
アベレージが50~60の地域でも十分使えると思います。
流石に40~50の地域ではオーバーパワーかな。
純粋なヒラスズキ目的であるならば、これ1本で広~くカバーできると思います。
また、ズリ揚げ、ブッコ抜きに対する大きな許容力があって、ここも高ポイント。
釣って寄せることが出来てもランディングに難があるロッド、デリケートなロッドは安全面からよろしくないですからね。
ちなみにヤマガ公式には「5kgくらいまでの青物でもヤレる」とありますが、うーん、どうでしょう?
「5kgの青物」がブリを指しているなら納得。
ヒラスを指しているならば、ちょっとダウト。
そもそも5kgのヒラスを考えたガイドセッティングじゃないですよね。
ヒラスズキ中に不意の青物が来たとして、どれくらいまで対応できるかという話で、青物を主目的としてよいロッドではありません。
トップガイドから数えて4番目と5番目、それから5番目と6番目のガイド間のブランク・・・「ベリー」に特に強いハリを感じます。
魚を掛ける前の段階でこの「ハリ」の存在に気がついていましたが、どうやらこれは
①重めのルアーを投げる際、ティップがダレることなくシャキっとキャストできるように
②魚を掛けた後に機能する仕掛け
上記2点の要素を実現するための特性のようです。
①を特に補足しておくと、大抵のluremax50g表示のシーバスロッドではバットに静かに乗せて恐る恐る投げることになるであろう、アダージョ125ヘビーを楽にフルキャストすることが可能です。
ビシッとブレることなくフルキャストできます。
強さと粘りを両立させるための、秘伝のカーボン巻きをしているのでしょう(笑)
ただし、強風下ではこのハリはかえって邪魔になる存在で、ロッドをしならせてくれるわけでもなく、風を切り裂いてくれるわけでもなく・・・・・ダルさを感じさせる元凶だ!とまではいいませんが、エクストリームコンディションでのキャスティングに関してはマイナス要素となっていますね。
また、通常のキャスト時において、ここを無理に曲げようとする「強振キャスト」をしても疲れるだけです。
7割8割程度の力のキャストで十分飛びます。
ブランクがブランクであるがままの・・・let it beなキャストを心掛けましょう(苦笑)
11ft前後のヒラスズキロッドのパワー表を仮にこういうものだとします
上の上
上の中 SHORE11
上の下 UC11 2S
中の上 バリヒラ11MHTZNANO←ココ
中の中
中の下
下の上 ARC1006
下の中 ルナミス1100Mのようなギリギリヒラロッド
下の下 10ft台のマルスズキ用ML~Mパワーのロッド
「上の中」からは上はMCワークスのWB113とか、FCLLABOのUC11β3とかのマルチパーパスロッドのカテゴリー。
純粋ヒラスズキロッドとしての上の限界はUC11 2Sが属する「上の下」でしょう。
バリヒラ11HTZNANOとか、ストリームミリアー110/11などもおそらくそれくらいだと思います。
要するに、エクストリームな“九州系ヒラロッド”の事です。
で、バリヒラ11MHTZNANOは結局どんなロッドかというと・・・
ある程度の硬さとパワーがあるけれども、その敷居の低さ・・・下は50程度から上は80upのランカーまで対応できるバーサタイルな性格からして、「ド真ん中を往く王道ロッド」だと評してもいいでしょう。
店頭では、あるいはキャストだけでは、その硬さに戸惑うかもしれませんし、ヤマガの「節操の無さ」を疑うかもしれませんが、釣ってみればわかります。
このロッドは曲げて獲るというポリシーに基いて作られており、決して急造のナンチャッテではありません。
新型バリヒラを作るにあたって「ヤマガらしいテイスト」を表現するために急浮上してきた素材(あるいはジャストなタイミングで東レから出てきたのが)がナノカボーンだったのではないでしょうか。
商業的な理由(革新的であるということを仄めかすことができるから)でナノカボーンを採用したのではなく、、このテイストを出すためにナノカーボンが必要だったということがよくわかります。
細部に不満はあります。
人によってはそれが致命的なモノとして捉えられることもあるでしょう。
が、本質的にはこのロッドは高い次元で完成されており、ものづくりの哲学を感じさせてくれる良品であると言い切っていいでしょう。
最初の1本
あるいは
次の1本
にお勧めです。
バリスティック・ヒラ 11MH TZ/NANO
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