フックの強度は何によって決定されるのか②
15,2017 10:55

前回のおさらい
・フックの強度は第一次的には使用鋼線の太さで決まる
・鋼線の炭素量と焼入れ処理がフックの「軟・硬」を決め、フックの形状が変形しようとする力に対する耐性に関係する・・・これらがフックの強度を左右する二次的要素である
・フックは「硬い」と折れるし、「軟らかい」と曲がるが、その性質の違いは純粋な技術的優劣の問題というよりは設計思想(経営方針)の違いという要素が大きい・・・故にフックの強度はメーカーの純粋な技術力で決まるものだと一概には言えない
・フックに使用される鋼線にフックメーカー独自の門外不出秘伝の鋼線など存在しない
(鋼線は鋼材屋から仕入れるもので、誰でも買える)
い や ~
面 白 く な っ て き ま し た !
突然ですが“オオバコ相撲”って、ご存知ですか?
オオバコ相撲
小学生の頃、遠足に行った際とかにやりませんでした?
オオバコという草の茎をクロスさせて引っ張り合い、相手の茎を切ったほうが勝ちとする遊びですが、これ、実はフックの相対的な強度を調べるには最高のメソッドなんです・・・
さぁ やってみましょう!
フック相撲の時間です!!
(ワーワー、パチパチ、ドンドンパフパフ)
まず新品のフックを2個、ペンチかプライヤーを2個用意します。
それぞれのフックのアイをペンチ等でしっかり挟んで握ります。
手伝ってくれる助手がいるならば片方のペンチを持ってもらいましょう。
居ないならば自分の右手と左手にペンチを持ちましょう。
それからフックのフックをお互いのベンディングカーブ部分でクロスさせます。
そしてフックがスッポ抜けないことを確認しながらゆっくり引っ張りあいましょう。
先にベンドが伸びてしまったフックが負けです。
なぜこのメソッドが良いかというと、フックとフックが絡む場所が実釣時において最も荷重が掛かるところになる(一番曲がりやすいところになる)ので、鋼線の口径のみに依存した強度を測定しているのではなく、フック形状をも踏まえた強度測定になるからです。

嗚呼・・・哀れ、新品のST-46#6
このフック相撲の相手は・・・ST-46#6と比べて
・同じ太さ(素人測定ですが、ほぼ同じ口径の鋼線のはず)
・同じ形状(ほぼ同じ角度のスロープトベンドタイプ)
・違う硬度(ST-46より体感上硬いと思われる)
つまり、フックの諸条件は同じで、軟・硬が違ったらどういう結果になるか・・・を、観察する実験です。
結果はご覧の通り・・・ST-46はひん曲がってKOされ、相手はピクリともせず無傷でした。
この実験から、口径が同じ、形状が同じなら、炭素量の多寡もしくは焼入れ処理の強弱によってフックの強度が変わる・・・炭素量が多い鋼線を使っているか、強い焼入れ処理をしているほうが強いフックである・・・ということが分かります。
ただし、実験の前提である「鋼線の炭素量・焼入れ処理はフックの強度を左右する二次的要素である」という項目に基づくと、ST-46をKOした相手の強度はこの伸びてしまったST-46より「大幅なパワーUPを果たしている」というわけではなく・・・仮にST-46#6が曲がった力を100とすると、110か115あたりで変形してしまう・・・つまりは「多少耐える」程度でしょう。
しかも、その変形は「伸びる」という性質のものではなく、110か115の力に対していきなりポッキリ折れるカタチで現れるのではないかと推測されます。
この実験と付属する推測ではST-46が性能的に劣っているかのような印象を受けますが、実は実釣時においては些細な差なんですね・・・コレって。
何故ならば実釣時においてはフックの100の防御力に対して魚の力は90だ105だ110だみたいな、JRPGの「こうげきりょく」と「ぼうぎょりょく」みたいな伯仲した関係にはなりません。
フックを伸ばすような魚は100の防御力に対して150とか200とかのぶっちぎりの攻撃力をもってフックを曲げ伸ばし折ってしまうからです。
つまり、軟らかい鋼線のフックが100の負荷で曲がろうが、硬い鋼線のフックが110の負荷で折れようが、両者の性能差はあまりないといえます。
ただし、MAXパワーがジャスト110の魚を掛けた時には、両者の間に天と地ほどの差が出ることになりますが・・・そんなことは滅多にないでしょう(苦笑)

↑の写真はラウンドベンドのフックと引っ張り合いをさせて負けたスロープトベンドのフックです。
ラウンドベンドの相手にコレと似た口径のものが無かったので、すこし格上の相手をしたことになりますが・・・勝負はあっという間に、予想より遥かにあっけなくついてしまいました。
スロープトベンドのフックはヒール(ベンドの底辺)からスロート(穂先部分)が急激に上がる形状をしているので、その「急角度」の一点に負荷が集中してしまい、ある一定以上の力を受けると急激に伸ばされてしまいます。
一方のラウンドベンドは負荷に対してベンディング部分全体で分散して受けようとするので変形が起こりにくく、しかも仮に変形したとしても徐々に徐々にゲイプが開いていく感じで、スロープトベンドのような急激な発露ではありません。
以上のことから、ST-46やがまかつSPMHタイプのスロープドベンドのフックは、がまかつRBMHのようなラウンドベンドタイプと比べて形状的に伸びやすいという結果が得られました。

この二つの実験の結果に忠実であろうとするならば、がまかつRBが
・素材的に硬い
・形状的に強い
ということになり・・・
理論的には最強のシーバスフックとなります。
ですが、現実は違います。
ST-46・RBMH・SPMHの同サイズがあるとしたら、自分の体感ではRBMHこそが一番伸びやすい、つまりは弱いフックだと思っています。
何故かというと、RBMH(あるいはRBH)はその長いシャンク長が祟ってしまい、どうしても同サイズのフックとくらべて総重量が大きくなります。
フック重量の増減に対して繊細な反応を見せるのが昨今のシーバスルアー・・・他のフックとのサイズ間の重量互換性が失われるとユーザーに買ってもらえません。
これを解消するには、同サイズでも細い鋼線径を使わざるを得なくなります。
実際、RBシリーズは細い線を使ってます。
そうなると結局、フック形状や素材の硬さで得たアドバンテージが相殺されるどころか、強度的にはマイナスになってしまうんですね。
あ、これって・・・
・フックの強度は第一次的には使用鋼線の太さで決まる
の証明に他ならない現象ですよね。
つまり、フックの強度を考えるにあたってはフックの軸の太さは正義だという、なんともストレートすぎる結論があるわけですが、フックに対して強さのみ(=太さのみ)を追求すると別の問題にぶつかります。
それは・・・
掛かりの良さ
です。
強度、すなわち太さは常に刺さりの良さとトレードオフの関係にあります。
太くなればなるほど肉を貫通する際の抵抗が増し、クリーンなフッキングが難しくなります。
また、単純なことですが、太くなればなるほどフックポイントの鋭さを失います。
どれだけ太くて頑丈で伸ばされるような失態が起きにくいフックであっても、まず掛けることが出来なければどうしようもありません。
フックの強度とは
・ライン強度を含めたタックルバランス
・想定するシーバスのサイズ(力)
・想定するフィールドの物理的コンディション
・刺さりの良さを取るか刺さった後のことを取るか
これらをトータルで考えながら選ぶものです。
シーバスは特に捕食がナイーブと言われている魚なので、刺さりの良さを過小評価するのは禁物。
近視眼的にフックの「強さ」のみを追い求めてしまうと、追い求めている魚と自分との距離が離れてしまうということが・・・ありえます。
しかし、海というフィールドは時として想定外のバケモノを呼んでしまうこともあり、そこが淡水の釣りにはない楽しみでもあります。
迷いますよね、コレって(笑)
正解はありません。
ただ、断言できることが一つあって・・・
フックを語る、フックについて考えるということは、すなわち、アングラーとしての経験が深まっている証拠なんですね。
存分にその「迷い」を楽しみましょう!
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