クラウドファンディングを使った「発明品」に注意されたし
ある日、一人のアイディアマン(といっても無論のこと理系エンジニア)が革新的な技術を思いつき、トライ・アンド・エラーを繰り返しながらプロトタイプの改良を重ね、やがて製品化まであと一歩のところまで漕ぎ着ける。
だがしかし・・・そんな彼らエンジニア達の起業ストーリーは2000年以前ならばここで途切れ、その多くは未完のまま終わった。
何故?
1.製品化し、流通網に乗せるまでの資本が調達できなかった
2.生産できる工場との繋がりを持っていなかった
3.その製品がはたして商業的に成功するかどうか予想がつかなかった
これらの問題のどれか(あるいはその全て)をクリアする見通しが立たず、画期的なアイディアは「特許」や「実用新案権」といったじつにつまらない形にメタモルフォーゼされ、大企業が金でそれを買い漁るという構図が常識だった。
が、インターネットの発達とともにこの「常識」は打ち砕かれた。
製造下請を探すことも、資金を調達することも、製品がどれくらい反響を得ることになるかの調査も、現代のネット社会ではそれらすべてが可能である・・・・・ドローンメーカーの多くは部品の製造技術など一切もたないし、世界的な人気を誇るアクションカメラはソニー製でもキャノン製でもない、若者に大人気のヘッドフォンメーカーの創業は2006年・・・アイディアと技術があればモノはカタチに出来るし、もしそれがウケることになれば世界的な企業に成長させることができるかもしれない・・・・・
このような新しいビジネスモデルの最たるものが
”クラウドファンディング”
クラウドファンディング(英語:Crowdfunding)とは、不特定多数の人が通常インターネット経由で他の人々や組織に財源の提供や協力などを行うことを指す、群衆(crowd)と資金調達(funding)を組み合わせた造語である。ソーシャルファンディングとも呼ばれる。
クラウドファンディングは防災や市民ジャーナリズム、ファンによるアーティストの支援、政治運動、ベンチャー企業への出資、映画 、フリーソフトウェアの開発、発明品の開発、科学研究 、個人・事業会社・プロジェクトへの貸付など、幅広い分野への出資に活用されている。
wikipediaより
かつては存在し得なかったモノづくりの「軽いフットワーク」と「スピード感」は、開発者と一般消費者の距離を縮めて両者が望むものを得られることになる「win-winな関係」になりやすいことは明白・・・
と、前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。
クラウドファンディングによって実現化される製品には一つの重大な問題が内包されています。
それは・・・
はたして開発者が提示する情報が真であるか否か、という抜本的な問題です。
クラウドファンディングの案件に出資する人は真贋を見抜く眼を持たねばなりません。
モノのスペックを偽って出資を募るという行為は詐欺まがいの許されざる話ですが、もしその「偽り」の立証が非常に困難なものであるとしたら・・・?
あるいは、「当初はそのスペックを目指したが、技術的な困難によって達成されなかった・・・が、契約により約束のモノと違う結果になっても返金はされない(注)」というようなことになれば・・・?
注:使用するクラウドファンディングのサービスや個別の契約条件によって「条件が達成されなければ出資者に返金する」こともあれば「企画をスタートさせるためのファンディングであって結果の如何に関わらず返金はない」など、ケースバイケースのようです
「TRITON」

今話題沸騰中のクラウドファンディングの案件です。
世界初の人造”エラ”で、装着すればおよそ45分間水深6m以下の水中で呼吸が可能というもの。
重く嵩張るボンベが要らず、水中の酸素を”エラ”で濾しとって電動のコンプレッサーで呼吸を可能とするらしい。
資金が集まったら、なんと1個たったの300ドルで
販売することができるとのこと。
https://www.indiegogo.com/projects/triton-world-s-first-artificial-gills-re-breather#/story
これがあれば大げさなスキューバ用品はなくとも誰でも気軽に素潜り感覚で海中を楽しめる・・・
磯なんかで、ベタ凪の釣れないコンディションに直面してしまっても、これさえあれば遊びながら次回のために水中地形を確認できる・・・
これはぶっちゃけ、Goproとドローンに替わる"the next thing"といえるでしょう。

・・・もしこれが本当ならば・・・
残念ならがら、このサイズで実現することは不可能のようです。
数字的に予見されています。
http://www.deepseanews.com/2014/01/triton-not-dive-or-dive-not-there-is-no-triton/
このサイトに簡単な計算がなされていますが、
要約すると:
・平均的な人間の一呼吸分の空気は約500ml
・吸入する酸素濃度は21%
・吐き出された空気の酸素濃度は16%
・つまり一呼吸で500mlの5%=25mlの酸素を人間は消費する
(中略)
・するとこの人造エラは一呼吸につき6Lの水を濾過せねばならない
・その6Lの水というのはおよそ実現不可能な「100%の酸素抽出効率」があるものとした上で、だ
・人は1分につき平均15回の呼吸をする
・つまりトリトンは1分につき90Lもの水を濾過せねばならない
・1分につき90Lの水の吸引という数値は0.25馬力のポンプが行なう仕事量だ
・動画を観る限り、トリトンは水の取り込みは完全に使用者の遊泳力(と、恐らくは呼吸の吸引力)のみに依存している
・いずれにせよ相当早く泳ぎ続けなければ不可能な数値に思われる
・しかもこの動作によって得られるのは一呼吸につき25mlの純酸素のみである
そうなんですね・・・・理論値の段階、「酸素抽出効率が100%」であったとしても、呼吸のために必要とされる水の量が多すぎるのに、抽出効率が100%に程遠いであろう現実では超強力な吸引モーターと大容量バッテリーがない限り不可能なんですよ。
図をみると、搭載されているコンプレッサーとリチウム電池は抽出した酸素を呼吸のために集める機構であって、水を吸引する機構じゃない(当たり前だけど、口元にチョコンと突き出る程度のサイズの電池とモーターで大量の水を吸引することは出来ない)。
人造エラはハリボテで、その中身には小型の2~3分持つボンベが隠されているのであろうという指摘が数多く上がっています。
正直、これを見た時スゲー惹かれました。
もし本当に「真のトリトン」があるとしたら・・・300ドルだろうが600ドルが出して買うと思います。
応援したいプロジェクトです。
これがあれば自分の釣りを・・・海底地形調査を・・・根本から変えることになると思います(素潜りが得意なのです)。
・・・ですが
残念ながら提示されているスペックのモノが完成することは(高確率で)ない案件です。
1分に25ml程度の純酸素しか生産してないはずなのに、動画の使用者がいつまでたっても泡をブクブク吐き出し続けているのはおかしいじゃないですか。
考えられる理由は:
A) 使用者の肺の容量が飛び抜けて大きく、水中に入るまえに吸引した空気が吐き出され続けている
B) 実はトリトンは水中で酸素以外の気体も大量に取り込むことができ、それが呼吸とともに吐き出されている
C) トリトンの中には気体を納める小型タンクが入っており、それが吸われて吐き出されている
どれでしょうかね(苦笑)
因みにこのトリトンのクラウドファンディング、返金のハードルはかなり高いです
・出資金が既に開発者へ送金されてしまっている
・出資期間が終了している
・出資に伴う特典・特約が実行されている
返金申請時に上記いずれかの事が成されていれば返金されません。
ただし例外的に
・クラウドファンディング会社が返金事例であると認める
ならば返金の可能性があるそうです。
それ以外の状態で返金を求めたいのであれば出資者が独自に自己責任のもとで開発者に返金を求めてくれ(クラウドファンディング会社はノータッチ)、とのこと。
つまりこの案件だと出資期間の終了が製品の最終化より早いので、完成された製品が出回っている段階で出資者がそれに不満があるから返金を要請してもほぼ不可能であるということです。
ビジネスモデルの勃興期には必ずこの手の・・・理系詐欺とでもいいましょうか・・・「革新的な製品」の話が出ては消え、消えては出るものです。
理系コンプレックスを抱きやすく、しかも他人をコロっと信じてしまいがちな日本人は、どうやってクラウドファンディングという新しいモデルと付き合っていくべきなんでしょうか?
商業的な出資であるという認識をしっかり持てば提案されるモノやサービスに対して冷徹な眼で観ることが出来ると思いますが、クラウドファンディングの場合「素質ある人の理解者・支援者となってあげる」という感情的な面が存在するから難しいんですよね・・・性善説が通用する「慈善活動」的な要素も併せ持つので。
いずれ日本でもフィッシング・アウトドア用品の分野でも似たような詐欺まがいのクラウドファンディング事例がでてくると思います。
ちょっと考えたら物理的に不可能なはずだとわかるのに、「新機構により~」「新素材が~」「従来の組み合わせになかった~」という甘いセールストークでお金を集め、実際は全然たいしたことないモノが作られるケースが。
あ、クラウドファンディングじゃないですけど、既にありますよね・・・
「世界最強のPEライン事件」とか(笑)
0.3号で1号に匹敵する15LB(6.8kg)の強度・・・
8本撚り高密度の超高品質PEライン・・・
http://www.gear-lab.com/products/detail236.html
なんということはない、0.8号の太さのPEを0.3号と称して売っただけ・・・
ルアーといい、ラインといい、リールといい、ロッドといい、釣りというジャンルは実際の性能を無視して誇大広告しても逃げ道が用意されいているのでクラウドファンディングを使った詐欺モドキには親和性が高いわけです。
しかもシーバスアングラーになると・・・「ギョーカイジン」に憧れる人、自身もその一員になりがたっている人の割合がさらに高いので、その心理を利用した「出資の特典」なんかに釣られないよう気をつけたいですね。
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