磯で危険な状態にある人を目撃した場合

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公開するかどうか迷った記事ですが、磯で危険な状態に陥ってしまった時にとるべき行動の指標になるかもしれない
と思って公開することにしました。

気象状況:曇り
風:無風とまではいかないが(磯ヒラスズキDAYとしては)かなり穏やかな部類
ウネリ:前日のウネリが残っていて波足が長い
潮位:満潮




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まだ薄暗い朝イチの時間帯・・・海のほうから複数のディーゼルの音が鳴り響いていました。
前日のウネリがまだ残っているのが遠くからも視認できますが、風はほぼ完全に収まっているので瀬渡し船からすると「出船日和」になるんでしょう。
その音を車の中で聞いた自分は、今日は瀬渡しの存在をライバルとして計算せねばならないと思った(通常、自分がヒラスズキをするような日には波が強すぎて瀬渡しは出ない)ことを記憶しています。
そしてちょっと考えて選んだ磯に降りると・・・


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見る限り、地磯には一人も降ろしていないことがわかって一安心。
この地域の瀬渡し船は陸行可能な地磯はできるだけ避けているようですが、沖磯が混んでいる時や特に希望する客がいた場合は普通に地磯にも降ろすこともあります。

今日は地磯には降ろさない日のようなのでラッキー・・・

なんて思いながらサラシを撃ち歩き、あるポイントまで到達すると、近くの沖磯(後でグーグルマップで計測すると100mほど離れていた)にフカセ師らしき釣人が1人乗っていることに気がつきました。
チラと見てあちらがカゴ青物でもしない限りお互い干渉するような距離ではないよね、みたいなことを考えました。

再び自分の釣りに没頭しようと視線を彼から離した瞬間、少しだけ違和感を覚えます。

そして10分後・・・その場のサラシを撃ち尽くしたので去ろうとしたその時、先程感じた違和感の正体に気がつきました。

おそらく彼が渡礁してから30分は経過しているであろうに、道具の展開をしていない。
竿を振る様子がないどころか、竿すら展開していない。
しかもできるだけ海から離れるように位置取っている感じが不自然である。


気になったのでその場を離れることなく、暫くのあいだ観察していると嫌な予感が当たりました。


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やっぱり波から身を守っていた

もしかしたら道具は既に吹き飛ばされているのかもしれない。
スマホは既に使用不可能の状態にあって船長と連絡がとれないのかもしれない。

「おおーい!」
「あぶないぞ、そこわー!」
「船呼んだほうがいいぞおー!」
「電話しろー!」
「電話あるかー!?」

大声で叫んでみますが、波風に遮られてアチラに声が届いている様子はありません。
そうしている間にウネリが酷くなってきて


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明らかに危険な波を被りはじめます。

流石にもう一線を超えていると思って自分が海保に電話することに

「ウネリが高い沖磯で危険な状態な人がいる」
「先程から頭から波を被っている」
「逃げ場はない」
「釣りをしている様子はなく波から身を守る姿勢をとっているように見える」
「既に荷物が流されてしまった可能性がある」
「視界には(渡した)船はない」
「ここはxxx(地域名)のyyyという磯で釣人や漁師なら場所を知ってる」
「先程から呼び掛けているが声が届いている様子はない」

すると海保の電話番は

「あなたは地域の方ですか?」
ちがいます

「一緒の船で来たのですか?」
ちがいます

「瀬渡し船が近くにいませんか?」
いません

「瀬渡し船に電話できませんか?」
できるわけねーだろ

「瀬渡し船の名前はわかりますか?」
知るか

「落ちてはないのですね?」
まだ落ちてはいません

「ライフジャケットは身につけていますか?」
身につけているようにみえる

「監視を続けてくれませんか?」
はい

「何かあったらまた電話してください」
はい

この海保のオペレーター氏は自分が伝える状況をよく聞いてくれたのですが、どうも沖磯の本人もしくは同礁の仲間からの電話ではなくそれを遠くから見ている人からの電話というところが引っ掛かっているようです。

本当に危険な状態なら本人がまず最初に船長(もしくは海保)に電話してるんじゃないの?

と。
そりゃ確かにそうだけど、電話が既にダメになっている可能性がある(浸水したり、荷と一緒に流されたりして)ってことが上手く伝わっていないというか、オペレーター氏はそういう状況を想定できていなかったような気がする。

そしてしばらくの後・・・


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思わず見ていた自分が
あっ!
と口に出してしまうくらいの大きな合成波が沖磯を襲います。


彼は吹き飛ばされ為す術もなく落水しました


この水温では(厳冬期よりはマシだけど)たぶん長く耐えられないだろうし、それ以前に体や頭を強く打ちつけてるかもしれない。
早く海保に伝えなきゃ、と思ったその瞬間・・・彼は自力でよじ登ることに成功しました。


・このウネリの落差の中
・岩に打ち付けられることなくいい場所に落ちて
・流される前にたまたま高すぎず低すぎない波がやってきて
・海面からちょっと突き出たテーブルのような台地の岩に押し上げられ
・チャンスを逃さずしっかりしがみついて
・勢い余って吹き飛ばされることなく
・引き波で再び引きずり込まれることなく
・次の波が来る前にもとの足場へ登ることができた


ハッキリいって奇跡レベルの偶然です
5,6個のサイコロを振って全て同じ目だったレベルの偶然が重なったんじゃないでしょうかね



普通だったら水を吸って重くなったウェアが邪魔してまず無理です。
全てが揃った最高に運がいい波だったと思います。

頭か体打って体が動かせなければアウトだったし、波が強すぎても弱すぎてもアウトだったし(本当に超都合のいい波だった)、岩がギザギザ溶岩タイプか牡蠣などの貝殻満載タイプでもアウトだったでしょう。
手掛かり足掛かりがなく登りようがない岩だったとしてもアウト。


磯ヒラマンなら皆知っていると思いますが、「こんな都合のいい波」が落水直後に来るなんてまず無いです。


すぐに海保に電話を入れ、やっぱり落水したこと、なんとか自力で這い上がることができたこと、荷などが吹き飛ばされたことなどを伝えます。
ここでようやくレスキューが出動の運びになりかけた(オペレーター氏は既に前の通報内容から場所をほぼ絞り込めていて出動の準備も進めていたっぽい)のですが


自分が海保に落水の通報をして数分後にどこからともなく瀬渡し船が現れて彼を無事回収した


ので、その旨をまた海保に連絡して事件は終わりました。

最後に海保のオペレーター氏からは瀬渡しの船名や登録番号など、どの船がやらかしたのかわからないか?と聞かれたのでしっかりチクっておきました。






落水したけれども幸運にも自力でリカバリーを果たすことができた彼は、明らかに正常性バイアスもしくは楽観性バイアスもしくはベテランバイアスあるいはそれらが複合的に重なり合った認知バイアスに陥っていました。

「この程度の波は経験してる」
「オレくらいのベテランになればなんてことない」
「この波はやがて落ち着くはず」
「これくらいで船長に電話するのは恥ずかしい」
「同船者に何て思われるかわからない」


彼の防御姿勢からは明らかにその足場に対する危険性を感じ取っていた様子が伺えたのに、船長(あるいは海保に)電話するという選択肢が浮かばなかったようです。
結局彼は落水して岩場に這い上がった直後に船長に電話した(電話はもっていたし、落水後も機能は守られていた)のですが、この足場はおかしいと思った瞬間に躊躇うことなく電話すべきだったと思います。
避難のしようがない孤立した沖磯ならなおのこと。
もしかすると、(iphoneなどの不完全な防水スマホにありがち)操作性が著しく劣る防水パックの中に入れていたのでスマホを取り出すこと事態が億劫だった(あるいは防水パックから取り出すことを躊躇した)のかもしれませんが・・・
個人的には素の状態で防水性能が高いスマホを使う重要性を再確認できたと思います。

この件で教訓になったな、と思ったことを箇条書きにしてみます

1.危ないと思ったら躊躇わず電話すること(地磯なら退避すること)
2.時間とともに安全になるハズという楽観はダメ
3.もうちょっと耐えたら大丈夫みたいなヤセ我慢は無意味
4.海保は落水などの明確な危険状態にならない限り本人もくしは同行者が要請するまで動かない(動けない)
5.アナタのことは友人でもない限り意外と誰も見ていないし(※注1※)注意も払っていない
6.周りに人(赤の他人)がいるから安心感があるという考えは改めたほうがいいかも
7.防水性能が高いスマホは大切
8.防水ケースに入れて運用する場合、ケースの中に入れた状態での操作のしやすさはとても大切
9.やっぱり正しいライジャケの装着は命を救う
10.磯ではいくら声を張り上げても相手には届きにくい(※注2※)


※注1※
実は落水した人のさらに奥の沖磯に別の渡礁者がいましたが、最初から最後まで無関心というか落水の事実にすら気がついていませんでした
その奥の沖磯は避難できる高台があって自由に歩き回れるので、危険な状況が近くに存在したという認識すらなかったと思います

※注2※
自分は笛を持っていましたが、自分は要救助者(と目される人)に声をかける立場であり、笛を吹いても意味がなかったのでどうしようもありませんでした。
もし仮に彼が積極的に助けを求めていたとして、スマホが使用不可能だった場合、自分に向かって大声で叫んでいたと思いますが何を言っているのかはまったく聞こえなかったと思います。
救助される側、つまり磯で釣りをする人はレスキューホイッスルを備えたほうが絶対にいいと思います。


ちなみに落ちた方はその身のこなしから相当な磯の熟練者であり、身のこなしも軽やかで俊敏性がある方だと見受けられました。
大事に至ることなく戻ることができて本当に良かったと思います。
ちなみにワタクシのこの日の釣行は「ずっと様子を見ていてね(はぁと)by海保オペレーター」のお陰でランガンスケジュールが崩壊してポシャリました。
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